旧友との再会は、新しい関係の始まり

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新しい関係の始まり

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「AERA」11月14日号に掲載されました。

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昔の仲間に会いたくなったら

ディベロッパーに勤める中村真二さん(42)は今年、25年ぶりに高校の同窓生と再会した。きっかけは、小説『いま、会いにゆきます』だった。
さいたま市にある県立与野高校出身。同級生に作家の市川拓司氏がいた。仲間の活躍を祝いたい。そしてあの頃を共にした皆に再会したい。卒業以来、部活動の仲間とは定期的に会っていたが、同級生が顔を合わせる機会はほとんどなかった。
「20代と30代は子育てと仕事に追われ、過去を振り返る時間はなかった。でも40代になって仕事も落ち着き、一息つく時間ができた。そんな折、同級生からスターが生まれた。卒業して25年目の今、再会のタイミングだと思いました。」
4月、自らが幹事となり同窓会を開いた。
「今どうしている?という話しよりも、あの子が好きだったといった思い出ばかりを話しました」(中村さん)
同窓会以降付き合いが深まった仲間もできた。家族ぐるみでゴルフやテニスに出かけるようになった。一度切れたかのように思えた過去のきずなが、再び結びついた。

約400人の同級生のうち、市川氏を含む、130人が参加した。大変なのが、幹事役だ。同窓会は幹事に負うところが大きい。転移先を調べる以外に、会場選びにも手間がかかる。その手間を嫌って、開催をためらう人も多い。実は中村さんは、「同窓会ビジネス」を利用した。

幹事ビジネスの代行業ビジネス

中村さんが利用したのが、大阪市の『同窓会ネット』。この会社は案内状作りから招待状の発送、会場の確保までを請け負っている。利用者は卒業名簿の手配と会費設定まで行えば、あとはすべて会社側が手配する。料金は2時間で一人7000~1万円で3コースある。当日不参加者がいたら、その費用は同社が負担する。
「不参加者の費用を負担する必要がないし、会場選びや招待状発送の手間も省ける。幹事代行会社があったことで、同窓会を開こうと思ったんです」(中村さん)
同社の伊丹正人社長(43)は、「自分が幹事をしたとき、名簿のチェックや場所探しに苦労した。でも、逆に、それを代行すればビジネスになるとおもったんです。」と話している。不動産関係の会社を経営していたが、その傍ら02年11月に会社を設立した。
当時は知人の同窓会を代行するにとどまっていたが、04年には114校、今年は9月末時点で186校の同窓会を開いた。来年の予定も 58校入っている。東京にも事務所を開いた。学生時代の同窓会を開催する動きが40代以降、とりわけ団塊世代を含む50代を中心に広がっているため、今後のマーケットは広がりそうだ。「ただし、同窓会は土日に集中するので、同じ日にたくさんのスタッフが必要。人手と人件費が課題です」(伊丹社長)

年配の利用者が多い

バーチャル同窓会サイトの『この指とまれ!』は、96年に開設された同窓会ビジネスの先駆け。サイトに自分の学校履歴を登録すると、別の登録者の中から同窓生を探せる。手軽に旧友を探せる便利さが口コミで広がった。登録者数は年々増え、10月末時点で324万人にものぼる。「母校は誰もが必ず持っているもの。だからインターネットを介して人が結びつくビジネスを考えたときに、学校つながりなら成立すると思ったんです」代表取締役の小久保徳子さんは、設立のきっかけをこう語る。
現在の登録校は約5万8000校。登録者数は29~31歳がピークだが、ここ2~3年の間に50~60代の登録も増えてきている。
代行業だけではない、大阪市の道頓堀近くにある、『お集り処 ひさしぶり』は、同窓会専門の宴会場だ。母体は電気工事会社だが、社長が母校の同窓会の副会長で、場所探しに苦労した経験から発案したという。
『ひさしぶり』は01年にオープン。現在では年間約300件の同窓会が開かれている。利用者は50代以降が多い。「思った以上に年配の人の利用が多く、驚いています。天候が安定していて、年末ほどの忙しさがないせいか、11月の利用数が多いんですよね」(浦埜正数事業部長)
ここに、50代後半から60代までの浪速高校(大阪市)山岳部OBが2年ぶりに集っていた。「日本が一番貧しかった時代に、一緒に山に登った思い出深い仲間。昔は色々あったけど、そんなことはもう過去の話。今では“友達以上”の存在です。(参加者)
社会的に成功したものがいても、会えばすぐにお互いを呼び捨てにできる。「自分が安心して山に登れたのは、先輩が一緒だったおかげ」「あの頃は部室で、レコードじゃなくてシノシートを聴いたよな」
すでに亡くなった者の話題に及ぶこともあるが、口をついて出てくるのは、高校時代の記憶を確かめ合うような思い出話ばかりだった。

素の自分をさらけだす

都内の老舗ホテルでも、『同窓会プラン』を販売する動きが出ている。93年から同窓会プランを始めてた帝国ホテルでは、今年からメニューに岩手県のわんこそばや山梨県のほうとうなど、47都道府県の郷土料理を加えた。
年間280~300件とコンスタントに売れ続けてきたが、プランの変更を発表したところ「問い合わせ数が圧倒的に増えた」(帝国ホテル広報)と確かな手ごたえを感じている。
およそ10年前から同窓会プランを販売しているホテルオークラも今年になってパンフレットを刷新したところ、予約状況が前年より 15%もアップした。
いずれのホテルも、過去に宿泊経験がある40~50代の顧客がプランを利用するケースが圧倒的だという。その理由のひとつに、負担する金額が考えられる。
各ホテルとも一人当たりの負担金額は2時間で7000~一万円。『同窓会ネット』や『ひさしぶり』もほぼ同額だ。
一方、キリンお酒と生活文化研究所の発表によると、20代が一回の飲み会で使う予算の平均は4000円。2倍近い金額を工面できるのも、中高年ならではなのかもしれない。
博報堂エルダービジネス推進室の阪本節朗さんは、「50代頃にいなると力が抜けてくる事も、中高年を同窓会に駆り立てる理由になっている」と語る。
もはや右肩あがりの時代は終わり、40~50代で職場を早期リタイアする者もめずらしくない。50歳を過ぎると会社人生の終わりが見えてくる。そんな時、今まで築いてきた人間関係を振り返ると、浮かぶのは会社の人脈ではなく、学生時代の仲間なのだ。
「ポール・マッカートニーがつい最近、ビートルズ時代の曲を解禁したのと同様、過去にもめた相手の事も、50を迎える頃には許せるようになるものです。それと、同級生は昔を知っているだけに、肩肘を張らないで付き合えます。利害関係が絡む仕事仲間には見せられない、素の自分がさらけだせる相手なのです」(阪本さん)

ライター 朴 順梨

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